●新発想による“8弦ギター”序文
★「ギターは演奏が難しい、何とかやさしくならないものか…」そんな単純な発想で生まれたのが(新)8弦ギターです。ギターの技術の難しさはほとんどが左手の困難さにあると思います。ピアノのようにすべての指が直接“音を出す”という動作ならば、たとえいくらかの制約はあったにせよかなり自由な音並びを考えることができます。ギターは、音を出す動作は右手であり、左手はほとんどの場合音を出すための準備動作を行っています。しかも、親指は指板の後ろで「縁の下の力持ち」という“けな気”な役割があり、残る4本の指で音を出すための準備を行っているわけです。でも誤解をしないでください。私はギターという楽器がとても好きです。なんといってもその音色は美しい。右手・左手ともに自分の音を作ることができ、制約が多い分さまざまな長所を持っています。ピアノはどんなにがんばっても「ヴィブラート」をかけることができません。また、目指す高さの音を出せる鍵盤はただ1つです。ギターの「カンパネラ奏法」のような美しさを得ることはできませんし、ラスゲアードの激しさはギターならではのものです。ポルタメントやグリッサンド・スラーも弦独特の魅力です。最近ではギターのパーカーッション効果の優秀性を狙った作品も多く発表されています。さまざまな長所を兼ね備えて魅力ある楽器“ギター”なのに、あまりの制約に愕然とすることが間々あるのです。譜例1を見てください。
(A)は易々とできるのに(B)は絶望的に不可能です。たった半音違いでもギターの制約の大きさを痛感するのです。そして、ギター作品は(B)のような作品を書きません。できないからです。しかし、音楽の表現はそれを求めることが当たり前のようにあります。これらの諸問題を解決するために8弦ギターが誕生しました。「今までの魅力をそのままに、更に自由な音作りをやさしい技術で」という発想が(新)8弦ギターの誕生のいきさつです。時間がありますならば、どうぞ順を追って読み進めてください。あなたのギターライフを豊にするヒントがきっとあると思います。加藤繁雄
●8弦ギターの構造と調弦
私が使っている8弦ギターはオーストラリアの製作家、サイモン・マーティ氏に依頼して作っていただいたもので、弦長650ミリの標準サイズです。各弦の弦幅も6弦ギターの弦幅と同じにしています。(A)弦・(1)弦は20フレット、ほかは19フレットです。(8弦ギター写真)
8弦ギターの調弦は、図1に示す通り通常の6弦ギターに(1)弦より完全4度高い(A)弦と(6)弦より完全4度低い(B)弦が加わります。(web上では丸数字は文字化けしますので、以後括弧の数字は丸数字と解釈してください)(B)弦は曲に応じて括弧内の“ラ”まで下げることもあります。
●8弦ギターの使用弦について
8弦ギターの(A)弦は市販されていません。従って私は「TORAY」の釣り糸である「銀鱗」の12号(標準直径0.570ミリ)を使っています。50メートル1000円(税別)という経済性もさることながらテンションも丁度よく、音色は透明感があります。当然のことですがギター弦として制作されているわけではないので音程の不具合の部位もありますが、8割以上の確立で使用に耐えうる感じです。(B)弦はハナバッハのバス(6)弦を使っています。
●8弦ギターの音域(図2)
実音の高音域は(A)弦の20フレット“ファ”(音符上は1オクターブ上)まで、低音域は通常(B)弦の開放弦“シ”までですが、場合により括弧内の“ラ”まで下げることがあります。全体の音域は6弦ギターと比較してかなり広がります。なお、ギター譜は実際の表記よりも1オクターブ低い音となります。(ト音記号の下に“8”とあるのはその意味です。)これだけ広い音域がありますと、ギターアンサンブルで使用する「アルトギター」や「バスギター」の音域をほとんどカバーします。